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 二十段ほどの階段を上るにつれ漂う甘い香りが濃くなってくるのは、あの時と同じだったが、上りきった先にひらけた景色は全く違っていた。  入口の鳥居はとうに朱が剥げて、片方の根元は腐り、ほとんど片方の柱だけで立っていて。  その奥の社殿には、欅か何か幹の太い大きな木から伸びた枝が屋根を枕にするように横たわり、今にも押し潰されそうで。  賽銭箱らしい小さな木の箱には枯葉が詰まってもう用を為さないものになっていた。  そして何より暗かった。  かぁ、かぁ、と烏の声に顔を上げると、まだ明るいはずの夕方の空は木々の繁った葉に塞がれて光が届かず。  遮られた中にひんやりとした空気と甘い香りが立ち込めているさまは、まるで外界から遮断された異世界のようだった。  あの時はこんなじゃなかったと思うが、15年も誰の手も入らずに放置されていたら様変わりするのも無理はないのだろう。  足を止めたまましばらくそこを動けずにいたが、息をつくと歩き出して、ぐるりと植えられた金木犀のひとつに歩み寄った。  あの時は届かなかった枝に、今は簡単に手が届く。  花をつけた枝に手を伸ばすと、背後で何か獣のような声がした。  振り返るとそこには唸り声をあげる大きな黒い影が居た。
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