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どこから現れたのか、その体長は180センチの自分から見ても、大して変わらないほどに見えた。
犬?いや、もっと大きい、……狼?
思わず後じさると金木犀の木に体がぶつかって、花を散らした。
途端、狼が恐ろしい声をあげて飛んだ。
「うわっ!」
ギリギリ避けて地面に身を伏せたが頬に鋭い痛みが走った。
爪が掠ったところから生温かいものが流れる。
『その木に近づくな』
狼が唸り声をあげると、頭に直接響くように声が聞こえた。
『わたしの庭を荒らすのなら容赦はしない。出て行け』
「違う。俺は別に荒らしに来たわけじゃ」
言葉が通じているのかいないのか、狼は憎しみの籠った目でじっと睨みつけると、もう一度地を蹴って飛んだ。
「っ……!」
今度は避け切れず、地面に倒され狼が赤い口を開くのが見えた瞬間
「葛城さま!」
甲高い子供の声が響いた。
狼は動きを止め、声の方に顔を向ける。
見ると、俺たちのすぐ傍らにふたりの子供が居た。
おかっぱ頭に、あの男と似た橙色の装束を纏い、双子のように同じ顔をしている。
ふたりはその場に片膝をついて言う。
「葛城さま。畏れながら、そのものは貴方が待っていらした子供だと思われます」
「ずっと貴方がお気にかけていらしたものです。お気をお鎮めください」
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