3/9
前へ
/60ページ
次へ
 どこから現れたのか、その体長は180センチの自分から見ても、大して変わらないほどに見えた。  犬?いや、もっと大きい、……狼?  思わず後じさると金木犀の木に体がぶつかって、花を散らした。  途端、狼が恐ろしい声をあげて飛んだ。 「うわっ!」  ギリギリ避けて地面に身を伏せたが頬に鋭い痛みが走った。  爪が掠ったところから生温かいものが流れる。 『その木に近づくな』  狼が唸り声をあげると、頭に直接響くように声が聞こえた。 『わたしの庭を荒らすのなら容赦はしない。出て行け』 「違う。俺は別に荒らしに来たわけじゃ」  言葉が通じているのかいないのか、狼は憎しみの籠った目でじっと睨みつけると、もう一度地を蹴って飛んだ。 「っ……!」  今度は避け切れず、地面に倒され狼が赤い口を開くのが見えた瞬間 「葛城(かつらぎ)さま!」 甲高い子供の声が響いた。  狼は動きを止め、声の方に顔を向ける。  見ると、俺たちのすぐ傍らにふたりの子供が居た。  おかっぱ頭に、あの男と似た橙色の装束を纏い、双子のように同じ顔をしている。  ふたりはその場に片膝をついて言う。 「葛城さま。畏れながら、そのものは貴方が待っていらした子供だと思われます」 「ずっと貴方がお気にかけていらしたものです。お気をお鎮めください」
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

204人が本棚に入れています
本棚に追加