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「葛城様……?」
じろりと狼が俺に目を向ける。
見下ろす眼には、どこかで見覚えがあった。
宝石のような、琥珀色の―――――。
「……まさか」
狼はくるりと背を向け
『帰れ』
と声がした。
「え……」
狼が社殿の方へ遠ざかると、その姿は溶けるように闇に消えた。
緊張が解け、はぁ、と溜息をついた俺に子供たちが駆け寄る。
「大丈夫ですか」
「血が……」
「……あぁ」
頬に触れると、ぬるりとした感触があり手に血がついた。
「傷は構わねーけど、ばあちゃんにバレたら怒られるのが困る」
体を起こして、シャツの肩を押しつけて血を拭うと、子供たちが眉をひそめる。
「なあ、さっき言った『葛城様』ってのは、ここの神様のことだろ?」
地べたに胡坐をかいたまま言うと、ひとりは口をつぐみ、ひとりは
「その前に、その口のきき方と態度はどうかと思います」
と唇を尖らせた。
「あー……悪い。下町育ちなもんで……なんて言っても分からないよな……えっと、君たちもここの神様でしょーか」
言い方が気に入らなかったのか、まだ胡散臭そうに俺を見ていたが、ひとりが言った。
「私たちはそのようなものではありません。ただの精霊ですが、もう何百年もあの方にお仕えしています」
「精霊?」
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