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 地元の民話では、南北朝の頃に都から流れて来た落人がこの集落の始まりで、彼らが祀ったのがこの神社という話もあり。  印象としては、歴史の表舞台からは追われて、細々とここで生き延びてきた人たちのための神様だったように思える。  俺は地面に座り込んだまま、溜息をついた。 「……結局、あの人は俺を覚えてなかったんだな。……まあ、こんだけデカくなったら無理ないか」 「いえ、そんなことはありません」 「あの方は貴方のことを覚えていらっしゃいます。来るなとはおっしゃいましたが、お心の中ではずっと待っていらしたはずです。ただ」 「ただ?」 「……あの方の中で、貴方は大切な思い出ゆえにずっとあの日の姿のままで、だから今の貴方と繋がらなかったのでしょう」  ふたりの子供は悲しげに目を伏せた。  15年。  祖母の言葉からしても、ここに訪れる人間は居なかったのだろう。  ただ季節が巡っては自分の家が荒れていく様を見て暮らすのは、いくら神様でも辛いことだろうというのは自分にも想像はつく。  俺は考え、言った。 「……あの人は、大人になったら来ていいって言っただろ。あれは、大人になったら忘れるだろうからってつもりだったと思うんだ。でも、俺はずっと忘れなかったし、会いたかった。だって、5歳のガキの時点であんな人に会ったら、他の何見ても色褪せちまうだろ。その辺の女なんてどうとも思わなくなっちまう」
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