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 くす、と子供のひとりが笑った。  ここに来ると、改めてそう思えた。  誰ともまともに付き合えなかったのも、多分そのせいなんだろう。 「だから、いろいろこの土地のこと調べたり、民俗学っていう神様とか古い伝承とか調べられる学問やって、たくさん本も読んで、ずっとあの人の影を追ってきたんだけど、でも、ここに来るのは怖かったんだ。来るな、ってあの人は言ってたし。――――あと、ここに来て、もしも何も起こらなかったら、ってのも怖かった。あの時のことが全部、無かったことになっちまう気がしたから」  言葉を切ると 「良かったです」 子供のひとりが、ぽつりと言った。 「今の言葉だけでも、あの方は慰められましょう」 「……貴方はあの方が最後に会った……正確に言えばこの社を訪れた最後の人間で、直接言葉を交わした人間となると、もう貴方の前はいつだか分からないくらいでしょうから」 「じゃあ、なんで俺は」 「お寂しかったのでしょう。……それに、あの方から人に近づいたところで、お姿が視えるものの方が稀ですから」 「ガキだったから、かな」 「いいえ。今でも私たちが視えているでしょう。あの方も。視えなければ先ほどのことも風が吹いた程度にしか分かりませんよ」
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