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「あれが?」 「かまいたちとでも思ったかもしれませんね」  ひとりがくすりと笑うと、もうひとりが睨んで、匠海に向き直る。 「貴方のお気持ちは分かりました。……しかし、今のあの方はさっきお会いになった通りです。数年前までは、ほんの時折は人のお姿でお出ましになられていましたが、今はもうずっとあのお姿でお籠りになられたままです」 「どうして……」  言いかけ、さっきここに入って来た時に見た光景を思い出す。 「……そりゃ、何年もこんなとこに居たら、そうなるか。人が来なくて荒れた神社には良くないものが住んでるとかいうしな」 「あの方は違います。……神様のお姿はお心の表れです。お寂しく悲しくて人の姿は保てなくなっても、まだこの土地や人を守ろうとするお心はあるのです」 「……けど、さっき俺殺す勢いだったよな?」 「あれは……」  ふたりは顔を見合わせ、俺の傍に屈んでひそひそと小声で言った。 「あれは貴方が、あの金木犀に触れようとしたからです」 「……あの時の木、これだったよなって思っただけなんだけど」 「あの方には、知らない人間がご自分の大切な思い出を壊そうとしているように見えたのです」 「……めっちゃ私怨じゃねーか、それ」 「しっ!」  ぴしり、と社殿の軋む音がした。 「……聞こえたら、私たちが怒られます」
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