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 戸の隙間から中に青白い光が見えると、背筋がぞくっとする。 「なんだ、あれ」  小声で言うと、ひとりが答える。 「あれはご神体の太刀です。元は、戦に敗れてこの地に落ち延びたものが主君の形見を奉納したものだそうですが」 「……そんな伝承も読んだけど、本当だったんだな。刀の神様にゃ見えなかったが」  バン!と中から何かぶつかったように木戸が鳴った。 「……今は、そんな感じだな」 「どうぞ。お気をつけて」 「ありがとうな」  二人は両側から木戸を開き、俺が入ると静かに閉じた。  社殿の中は祭壇にある太刀の放つ青白い光と、手にした金木犀の温かな色の光のほかは暗く、木の湿った、ところどころ腐りかけたような嫌な匂いがした。 『――――もとは、わたしの本体は鏡であった』  突然低い声がして、びくりと飛びのくと、背後の今閉められた木戸の陰に体を丸めるように黒い狼が居た。  俺に聞かせるというよりは独り言のように狼は語る。 『しかし、永い年月の間に社は壊れ、鏡も割れた。それでも、わたしという意志のある間はこの地を守ろうと留まっていると、その刀を奉納するものが現れた。主家を再興したい願いを掛けたのであろう。その願いによりわたしは再び依代を得て、彼らの末裔であるものたちを守り、また祀られてきた』  ……じいちゃんがここの生まれだったっていうから、俺もそのひとりってことになるのか。
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