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『だが、……時が移り、新たな戦があり、戦が終わりまた人々の暮らしが戻り、これからも務めが果たせると思っていたが、人はこの地を見捨てた。誰が訪れることも、願いを掛けることもなく。わたしは神としては死んだも同じだ』 「でも……そこに居るじゃねーか」 『永い時を、人を恨んだ報いがこの姿だ。いずれ、近いうちにわたしもこの社も滅びよう』 「……近いうちって?」  それきり声は聞こえず、光の方へ目を遣った。  青白い光は恐ろしいようで、厳かにも見え、惹かれるように歩み寄ると、視界の端に何かこの場にそぐわないものが映った。  祭壇の隅に置かれていたのは、幼い自分があの男に渡した飴だった。 「これ……」  ざあ、と木々を揺らす風の音がした。 『嵐が来る。帰るがいい』  淡々とした声に俺は振り返った。  台風の影響で大雨との予報は、夕方のニュースでも変わることはなかった。  山間部は土砂崩れの恐れがということも。  目を閉じた狼の傍らに座って俺は言った。 「なあ、もしかして、ここ台風で壊れるのか?近いうちってそういう意味か?」  狼は答えず、黙ってそこに居ると 『早く帰れと言ったのが、聞こえなんだか』 声がして薄く片目を開く。
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