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「あんたが答えないうちは帰らねーよ」
俺をちらりと見るとまた眼を閉じて、溜息をつくように狼は言った。
『……山が崩れる。だが、此処より先、お前の祖母の家にまで害が及ぶことは無い。分かったなら帰れ』
「……あいつらは、それ知ってるのか?」
狼は黙ったまま答えず、俺は手元にある淡い光を放つ枝を見た。
夕方、今の姿さえ十年もたないだろうとひとりが言った時、もうひとりが何か言いかけ、遮った。
あいつらは全部知っていて、俺がここに来られるように、こいつに会えるように助けてくれたんじゃないだろうか。
風の唸る声は少しずつ激しさを増して、ただでさえあちこち傷みかけた社殿をガタガタと揺らす。
膝にぎゅっと拳を握りしめたまま動けずに居ると
『お前が此処に居たとて、出来ることは何も無い。祖母の元に帰ってやれ』
狼が言った。
それは、そうだ。
その通りだ、けど……。
「あんたはどうなるんだ。ここもあんたも滅びるって……消えちまうってことか?」
眼を瞑ったまま、狼は何も言わない。
「……なあ、俺は嫌だ。あんたとせっかく会えたのに」
『お前が会いたかったものは、別のものだろう』
「……いいや、違わないね。体は変わったってその眼の色は同じだし。それに……あんた以外の誰が、あんな十何年も昔の飴玉なんか大事に持ってるんだよ」
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