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 狼はうるさそうに頭を振って顔を背け、俺は意地になって詰め寄って言った。 「こっちは、あんたが考えてるよりずっと、あんたのことばっかり考えて生きて来たんだ。分かったら帰れって言われて、そうですかって帰ったり出来ねえんだよ」 『……お前に出来ることなど無いと言っているだろう』 「けど、だったらあいつらは俺をここに連れて来たりしなかったはずだ。……あんたをそのひねくれた姿のまんま死なせたくなかったからじゃねえのか」  ぴり、と空気が震えて、狼が眼を開け、毛を逆立てるのが分かった。 『お前に何が分かる』 「分からねえよ。分からねえけど……」  その時ぱらりと、手にした枝からいくつかの小さな花が落ちて、甘い香りを漂わせた。 「あ……」  あの方のお心をお慰めするかもしれませんので。    そう言って微笑んだあの精霊の姿を思い出す。 「……こんなことになるだろうと思って、持たせてくれたのかもな」  狼の鼻先にその枝を置くと、彼は温かい光を放つ花を見つめ、すんと香りを嗅ぐ。  と、かっと見開いていた眼の色が穏やかなものになる。  そっとその眉間に手を伸ばしてみる。  狼は逃げることはなく、俺の指先が黒い体毛に触れると言った。 『何をしている』
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