7/14
前へ
/60ページ
次へ
「あんまり分かってないかもだけど、……でも、何もしないで最初から諦めるのは嫌だ」  両手を伸ばして、狼の顔を撫でた。 「その姿で居るのが辛いのも、それでもこの集落を守るのがあんたの務めだってことも分かるよ。だから、その役目が終わったらでいいから、俺のものになってくれないか」  じっと琥珀色の瞳が俺を見つめる。  心の底を探るように穴が開くほど見つめたと思うと、獣の舌がべろりと頬を舐めた。 「っ……?」  絆創膏は風呂に入ってふやけたのか、どこかで取れたらしく、直接舌が傷に触れたが痛みはなかった。  温かい舌に撫でられると傷が癒えるような心地すらしてくる。  もう一度傷を舐めると狼は言った。 『……なぜ、そこまでする』 「そんなの、決まってるだろ」  もう大きな黒い獣は怖くはなかった。  狼の体を抱いて、俺は言った。 「やっぱり、あんたが好きだ。……ここに来て分かった。綺麗で優しいだけのあんたじゃなく、あんたそのものに惹かれてたんだって。……来るなって言われてたし迷ったけど、来て良かった」  大きな犬を抱くように背中を撫でると、狼が頬を舐めて、くすぐったい感覚が走る。 「狼でも神様でも、違う姿でも何でもいいよ。あんたが欲しい。ここの神様の役目が終わったら、俺と――――」
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

204人が本棚に入れています
本棚に追加