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その時、抱いていた体が不意に小さくなった感覚があり、腕の中で狼の姿が消え、代わりに白い装束を纏った人の体が現れた。
「……え……」
自分よりひと回り小さい体。
烏帽子はなく、髪も狩衣の襟元も乱れてはいたが、間近に顔を寄せ合っていたのは紛れもなくあの時の男だった。
抜けるような白い肌に、濡れた果実の色をした唇。
視線が合うとびくりと体を引いた俺に、男は琥珀色の瞳をぱちぱちと瞬かせる。
「っ……あんた……体、戻っ」
自分の手を見て、ついで体を見て、男はこともなげに言う。
「ふむ……そのようだな」
「は?」
「人へのわだかまりが消えれば、姿が戻るのは道理。何も驚くことはあるまい」
顔にかかった髪を掻き上げると
「して、お前はどうしたのだ?頬を赤くして」
首を傾げて男は俺を見る。
いや。
いやいやいや。
そんなキレーな顔が間近にあったら。
しかもそれがさっきまで狼の姿で俺の顔舐めてたとか思ったら、顔から火が出そうになる。
「……っ、つか、体平気なのか」
「何も問題は無い。……まあ、霊力が残り少ないのは変わりないがな」
「え?」
俺の脇に胡坐で座り直すと、男は自らの手を眺めて言う。
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