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「あれ、鳴瀬」 「おう」  9月終わりのゼミ合宿、最後の夜。  皆は広間で打ち上げ飲みの最中、食堂の隅に座ってひとりウーロン茶を飲んでいると、酒を取りに来た小山が驚いた顔をする。 「お前、さっき橋本さんと外行かなかった?」 「なんで知ってるんだよ」 「ちらっと、視界の隅に入って」  小山は冷蔵庫を開けてビールを取り出すと、俺のところに来る。 「告白でもされてんのかと思ってたけど」  黙っていると 「そうなの?」 と顔を覗き込む。 「……まあ、そんな感じだったけど」 「いいなあ。お前、モテるな。で?断ったの?」  答えずにいると 「やっぱ、そうか」 この民俗学ゼミに入る前からの友人は、驚く風もなく頷く。 「もったいね。あの子可愛いのに。性格もいいけど」 「……いい人だから、半端に気もたせちゃ悪いと思ったんだよ」 「うわー。1回言ってみてえ。そんな台詞」  小山は缶ビールを開けて飲む。 「お前だって女の子の友達は多いだろ」 「俺の場合はあくまで友達。話しやすいんだか女の子は寄ってくるけど、付き合いたい、って子はあんまり居ないのよ。鳴瀬と逆ね」  確かに、自分は異性と話すのは苦手な方だと思う。  その割に、高校生の時と1年生の時、今回と告白されたのはこれで3度目だ。
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