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ただ外見が似ているというだけなら、話しているうちにあの人とは違うと納得して、すぐに興味を失っていただろう。
違う、と考えようとしても、それでもこの人が気になって仕方ないのは、多分あの人を重ねても違和感が無いからなんじゃないかと思った。
あの人ならこんなことは言わない、こんなことはしない、と感じる部分がまるで無いのだ。
「すいません。ご馳走さまでした」
「どういたしまして。蕎麦湯も美味しかったし、僕も満足したよ」
本当に嬉しそうだ。
腹が減ったから食べるっていうより、気持ちの方なんだろうな……。
「あの、そういえば思い出しましたけど」
「うん?」
「飴、好きだって言ってましたよね?それも食べたいからじゃなくて、気持ちですか?」
「ああ」
覚えてたか、と彼は苦笑いする。
「あれも、そうだね。食べたいっていうより、口に入れることで安心する感じかな。今もあるけど、要るかい?」
と、彼はジャケットのポケットに手を入れる。
「いや、今はいいです。腹いっぱいで」
やっぱり、変わってんなあ……。
歩きながら、学校が近づくと、これでまたしばらく話すことも無くなるんだろうと思った。
連絡先を交換したといっても、学生同士じゃあるまいし、友達みたいに気軽に誘ったりするのは……。
「あの、鳴瀬君」
「はい?」
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