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「けど、きみが急ぎだと思って全部やってくれて、本当に申し訳ないと思ったんだけど言えなくて……済まなかった」
ちょっと待て。
今なんか背中がぞわっと。
嬉しくて鳥肌立ったんだけど。
今、本人の顔を見るといろいろと自分がヤバそうなので、敢えて正面を向いたまま俺は言った。
「あの、だったら、今日のことはもういいんで。飯もうまかったし。……だから、次はそういう小細工とか無しで、行きたいところとか、食べたいものとかあったら、普通に誘ってください」
「……怒ってないかい?」
「怒ってませんよ」
彼は息をついて言った。
「悪いねえ。大人げないことして」
「……飴食うのが精神安定剤代わりの人ですしね」
ふ、と彼は笑って言った。
「そうだね。じゃあ、怒ってないなら、ついでにもうひとついいかな」
「まだ何かあるんですか」
「この前、初めて会った時に、僕を見て言ったろう?葛城、って」
「……言ったけど、あれは……」
「別に構わないんだ。それは。そうじゃなくて……きみの中ではその人の方が先に『葛城』だったんだろうから、僕を同じ名前で呼ぶのは複雑じゃないかと思ったんだ。大事な人だと言っていたし。……だから、他の人が居る時は別としても、二人だけの時は下の名前で呼んでもらって構わないよ」
「……へ?」
俺が素っ頓狂な声を出したので、彼は苦笑いを浮かべる。
「そんなに、変なことを言ったかい?」
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