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 ボストンバッグを肩に路線バスから降りて来ると、終点のベンチで待っていた祖母が手を振った。 「匠海。また大きくなったんじゃないかい」 「んな毎年デカくならねーって」  というか180もあったら古い祖母の家ではあちこち頭をぶつけるし、これ以上伸びて欲しくはない。 「そうかねえ。あたしが縮んだのかね。ああ、車こっちに停めてあるから」 「ありがとう」  母方の祖母は、ここから更に20分ほど山を上ったところにある一軒家に、祖父が亡くなってからは一人で暮らしている。  麓の町に叔父夫婦が住んではいるが、80も近いのでそろそろ引き払って施設に入るか、叔父のところに一緒に住んだ方がと周りは心配しているが本人は至って元気そうだ。 「ゼミ合宿、だっけ?そのまま来て疲れてるんじゃないのかい」 「運動部の合宿じゃないんだから大丈夫だよ。それに、夏はバイトで来られなかったし」  1年生の時から続けている大型書店のアルバイト。  休みを取れないこともなかったが、俺にきょうだいは無く、いとこも年下の女ばかりで、両親や親戚と長い時間を過ごすことを考えるとつい面倒になり、他に休むやつが多いからと言ってお盆期間もずっとバイトに行っていた。
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