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「ばあちゃん、窓開けていいか」
「いいよ」
祖母の運転する四駆仕様の軽自動車に揺られて山道を上っていくと、開けた窓から山の匂いのする風が入って来る。
青い葉と、もう枯れ始めた黄色い葉と土とが入り混じった、秋の初めの匂いだ。
親や親戚と顔を突き合わせて過ごすのは苦手だが、山の空気は嫌いじゃない。
外を見つめていると祖母が笑って言った。
「あんたの住んでる都会は何でもあるだろうに、こんな何も無いところに来て面白いのかね」
「ばあちゃんだって、不便だけどここがいいから住んでんだろ」
「そうだけど、あんたはまだ若いのに」
確かに、母は俺の年にはもう進学を機に家を出ていたらしいから、祖母の言うことも分かるけれど、俺にとっては物心つく前から遊んでた場所で、大事なルーツみたいなものだ。
ふと、風の中に僅かに香る金木犀を感じたが、祖母には黙っていた。
「ばあちゃん、これ、お袋から。あと、こっちは俺からお土産」
「あら、ありがとう」
家に着いて、母から預かって来たものと、合宿先で買った地酒を渡すと、酒好きの祖母は笑った。
「重かっただろうに」
「全然。小さいやつだし」
「ありがとね。まず仏様にお供えしようね。あんたは小さい時からよく気のつく子で。その辺の花を摘んで持って来てくれたりもしたねえ」
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