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「そうだっけ」  覚えているが面倒でごまかすと、祖母は言った。 「そうだよ。ひとりであちこち行っては虫だの花だの取ってきて……裏山の神社に咲いてたって、金木犀を持って来たこともあったじゃないか。よく石段上ってあんなところに行ってきたって、びっくりしたよ」 「……あん時、危ないからもう行くな、って言われたから、行ってないよ」 「本当だよ。あたしがお嫁に来た頃はまだお祭りやら願掛けやらで人も来て賑やかな時もあったけど、麓の神主さんが管理しなくなってからは荒れ放題で……今は神様どころか狐や狸が住んでいそうで怖いよ。神様にそんなこと言っちゃいけないんだろうけど、裏にあんなものがあると、ちょっと気味が悪いよ」 「……そっか……」  初めて聞いたように頷いたが、何度も聞いた話だ。  自分でも調べられることは調べたが、俺が生まれる前にはもうこの集落の住民はうちだけになっており、交通の便の悪いところをわざわざ訪れる参拝客も居ないということから、いわば忘れられた神社になったようだった。  それはつまり、あの出来事が夢や俺の勘違いでなければ、あんな場所に、しかもあんな格好で誰かが現れる可能性はゼロに近かったということなのだ。
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