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偶然ね、偶然。そうね、私が茉莉花さんを調べ、彼女とわざわざ同じ髪型になるように美容室に行き、同じ香りに同じ仕草。それらが全て偶然だと思うのよね。
バカな男。背徳の檻から出るために抱かなかった娘が、本当は檻から出るための鍵だったのに。結局は呪いにとらわれて私を抱いているなんて。
茉莉花さん、私ね、本当はあなたに真実を話したらそれで、終わりにしようと思っていたのよ。別にあなたを羨ましいとか、妬んでもいなかったわ。
でもね、ふふっ、私は気づいてしまったの。私も皇彰家の女だということを。その呪いを受ける身だということを。でないとおかしいでしょ、父親に懸想し、異母兄に抱かれるたびに感じてしまうなんて。いつの間にか、私も背徳の檻の中に入ってしまったようね。
「まりえ、あのミッショナリーポジションだっけ? たまには君の顔を見ながらしてみようか」
「あら、珍しいこと。あなたがそんなこと言うなんて、どういった心境の変化なの?」
「さぁ、いつも同じ体位ではつまらないだろう? 僕も、君も」
「……そうね」
その病院は坂の上にあった。バスを乗り継いでたどり着いた先にある白い建物だ。ここに、花というあの女の母、いや、私の本当の母がいると日記に書いてある。
入口に向かい階段を上る私の額には、暑さだけではない汗が流れている。そして、私は知る。花の病室には咲き誇るジャスミン(茉莉花)が飾られて、私を待っていたことを。背徳の檻から、出たことを。
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