背徳の檻

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 妹である私と同じ、少し明るい茶色のウェーブのかかった髪をした女。そして私と同じ年齢。名前まで、私、茉莉花(まりか)と似たまりえ。ふざけている。  正面から見ると、細面の女に比べ私は二重で唇もぷっくりとしている。どちらが美人か、と言われれば恐らく私の方が現代的な美人であろう。だが、女も着物を着ると雰囲気のある一重の美女だ。  兄はまた新聞を読み始めた。まるで、文句を言う私の方が悪者のようだ。後ろ姿が私に似ている女だから、結婚した。それを堂々と言って許されるのは、皇彰家の男だからだ。  親戚は言う。異母妹である私に懸想した兄が、間違いを犯さず良かった。全く関係のない血の娘で良かった、と。 ――ふざけないで。  ギリ、と歯を食いしばる。この美しく儚げな兄は私のものだったのに。兄のその細長い指が触るのも、その熱い吐息も、私だけが知っていれば良かったのに。  流石に最後までしていないが、私と兄は何度か裸でお互いの身体をまさぐりあった。兄を口に咥え、何度も飲み込んだのは私なのに。  兄は私の代わりの女をみつけ、毎晩のように身体を繋げる。マリ、マリと叫ぶのはまるで私を呼んでいるようだ。  兄がふと、新聞から顔を出して私を見る。 「どうした? 茉莉花、寂しいなら、……久しぶりに相手をしてあげようか?」 「――!!!――」  驚きで言葉が出ない。結婚が決まってから、兄は私に触れることも私が咥えることもなかった。それは、そこだけは超えてはいけない。内側にある細い倫理の鎖が私の矜持を守る。 「……最低ね、お兄様。……もういいわ」 「ふーん、そうか」  兄はまた、何でもなかったかのように新聞に目を落とす。私はそっとその部屋を出ると、大きなため息をついた。 「あら、茉莉花さん。まだいらっしゃったの?」 「まりえさん、ここは私の家なのよ。いつ、どこにいてもいいでしょ」  まりえは私を見るたびに、嫌味っぽく出て行けと視線で語る。短大を卒業した私は、今は家事手伝いとしてこの皇彰家を仕切っている。父や兄の手が届かない家のことを任されているのは、私なのに。 「茉莉花さん、心配されなくても、私が采配しますからよろしいですよ」 「何を勝手なことを、皇彰家の伝統行事は私でなければ、わからないでしょうに」
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