背徳の檻

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「……私ね、大旦那の昭彬様のことが好きなのよ。声がね、こう、低くて。あなたのお兄様も、同じ声をしているのよ、知っていた? やはり親子ね。声帯が同じなのかしら。だから、あなたのお兄様が私の名前を呼ぶとね、こう、嬉しくなってしまうの。だから、お互い様なのよね、私たち夫婦って」 「……あなた、狂っているわ」 「さぁ? 私だけが狂っているのかしら。皇彰家は同じ血を好む、って有名じゃない。それって男だけだと思う? そうよ、違うのよ。女も求めるのよ。ホラ、あの人の母親。今は実家に帰っていらっしゃるけれど、ご存知よね。実家には未婚の弟さんがいらっしゃるわ」 「それは」 「皇彰家の呪いは、男だけじゃないってことよ。女も、呪われて狂うのよ」  この家は一体、どこまで狂っているのだろう。  屋敷にある黒電話がジリリリン、ジリリリンと鳴り響く。電話をとるのは私の役割なので、急ぎ玄関へ走って受話器をとった。 「はい、皇彰でございます」 「皇彰さまのお宅でしょうか?私は――病院の者ですが、まり―様は御在宅でしょうか?」  ところどころ、音が飛ぶ。どうやら電話が遠いようだ。 「はい、私が皇彰茉莉花ですが、どういったご用件でしょうか?」 「あぁ、まり―様ですか、実は―――」  その人が話す内容は、私を驚かせた。話し終わってガチャンと受話器を置くと、私はすぐにあの女のいる部屋へ走って戻る。 「開けるわよ、まりえさん」  ろくに挨拶もしないで襖を開けると、女はタバコをくゆらせていた。ふーっと白い息を吐いて煙を見ている。ピースの缶はもう既に空に近い。 「何よ、タバコなんか吸って」 「あら、悪いかしら? 昭栄さんもお好きなのよ。あなたもどう? ピースはお好きかしら?」  白い絽の着物を物憂げに着た女は、またタバコを吸ってゆっくりと吐いた。 「ふざけないで。あなた宛てに電話が来たわよ。病院から、あなたの死んでいないはずのお母様が危ないそうよ。マリ、マリって呼んでいるって。不思議ね、もう死んでいたんじゃないの?」  私が叫ぶような早口で話すと、女はさすがに驚いたのか目を開いて私を見た。 「そう、電話が来たの」  女はキュッとガラスの灰皿にタバコを押し付けて火を消した。 「……茉莉花さんが受けてくれて良かったわ」 「どういうことよ」
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