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だが、妾の子は皇彰家の子と認められたが、花の赤ん坊はそうではなかった。少し前に事件が起こったからだ。花は襲われていたからだ。男に、それも異国の男に。
花が異国の男に襲われたことは、直ぐに人の口に上る。隠し事などできない地域だ。皇彰家の長男のお手付きであったが、すぐに解雇されてしまった。
花はすぐに妊娠したことに気がついた。日数から考えても異国の男の子だ。皇彰家の昭彬の子であれば、あれ程までに祝福されるのに、私の産む子は誰からも祝福されない。
花は絶望から狂気に走る。花は自分の産んだ赤子と妾の産んだ赤子を取り換えた。産院で何の印もない赤子を取り換えることなど、容易だった。赤子は同じ、茶色い髪の女の子であった。産院から逃げる道の途中には、ジャスミンの花が咲き乱れていた。
「嘘よ、そんな……私がその取り換えられた子だとでも言うの?」
だが、思い当たることも多い。私は父にも兄にも似ていない。母に似た髪をしている、と言われて育った。まさか、私は本当に取り換えられた子だとしたら。
「狂っているわ、可笑しいわよ、私が皇彰家の女ではないですって?」
そしてこれが事実となると、あの女が、まりえが皇彰家の血を継ぐ女となる。そして兄はまりえと結婚しているのだ。毎晩組み敷いて抱いているのは、私ではなくまりえだ。
「え、ちょっと待って。あの女、自分の異母兄と結婚して、尚且つ自分の父親を慕っているってこと?」
ヒヤリ、と背中を冷たい汗が流れるのを感じる。
ああ、まりえは言っていたではないか。
――皇彰家は同じ血を好む、これは男に限らないのよ。女もなのよ、と。
「まりえ、君、茉莉花がどこに行ったか知っているかい?」
鈴虫が鳴き始めた宵闇に、彼が私の腰の辺りをさすりながら聞いてくる。
「どうされたの? 茉莉花さんだって、もういい年ごろの娘よ。きっとあなたに似た男性とお付き合いをしているのではなくて?」
「そうか、僕がまりえを見つけたように、茉莉花も僕に似た男を見つけたのかな」
「ふふっ、おかしな方。その言い方だと、まるであなたが私を好きなのは茉莉花さんが好きだから、と聞こえるわよ」
「まりえ、そんなことはないよ。バカだな、君が茉莉花に似ているのは偶然だよ」
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