希美の傷

2/20
前へ
/331ページ
次へ
希美には、生まれた時から既に父親はいなかった。 美人で恋多き女だった母は、若くして未婚のまま希美を生んだ。 希美が中学生になるまで、母の交際相手は何度も変わった。 それはもう、数え切れない程の人数で。 でも、その中の誰とも、結婚にまでは至らなかったようだ。 そして、希美が中学生になった頃、 「結婚したい人がいる」 と母から告げられた。 相手は、由緒ある名家の人だとかで、どうしても母と結婚したいと申し出てくれたのだそう。 母も、やっと働き詰めの生活から解放されると、嬉しそうだった。 だが、この話には1つだけ、交換条件が付けられていて。 希美のことまでは、引き取れないという話だった。 その相手の血を引く正式な跡継ぎを産み育てる必要があり、それをするにあたり希美は邪魔者だと見なされたのだ。 希美は母と離れたくないと懸命に訴えたが、母は、 「お母さんも、幸せになりたいの」 そう言って、希美の気持ちなど完全に無視をして、相手の条件を飲んでしまった。 母は希美を産む前に両親から勘当されており、頼りに出来る親戚も誰一人おらず、希美を託せる人もいなかったのだが―― 母と離れて暮らす希美の生活は保証するという条件もあったので、希美は高校に入学と同時に一人暮らしをすることが決まってしまった。
/331ページ

最初のコメントを投稿しよう!

307人が本棚に入れています
本棚に追加