298人が本棚に入れています
本棚に追加
/331ページ
「でもね、今はこんな風になっちゃったけど……精神的に凄く支えてもらった思い出があるから」
また希美の瞳が潤み出す。
「だから、私の方からはケンちゃんに別れを切り出せないの」
「……」
「別れたとしても……こんな傷だらけの体じゃ、桐生君と付き合うことも出来な――」
「そんなんじゃ納得出来ない」
頼斗は希美の言葉を遮ると、希美の体をぎゅっと強く抱き締めた。
「桐生君……!?」
希美は驚いて頼斗から離れようとするが、びくともしない。
「は、離して!」
「嫌だ」
頼斗は希美を抱き締める腕に、更に力を込める。
「俺のことが好きじゃないとかなら納得出来るけど、そうじゃないんだよな?」
「……」
希美は何も言えずに、黙った。
「希美」
頼斗の低く落ち着いた声に、その呼び方に、
「!」
希美はドキッとしてしまう。
「俺はもう、希美以外の女なんて考えられないから」
「……」
「希美の気持ちの整理がつくまで、ずっと待ってるから」
「……」
頼斗の真っ直ぐな眼差しに、希美は惹き込まれて目が離せない。
「だから俺とのことも、もう少しよく考えて欲しい」
「え……」
「希美からいい答えをもらえるまで、絶対に手は出さないから」
「……今の、この状況は?」
既に抱き締められているのに、この宣言は説得力がない。
最初のコメントを投稿しよう!