希美の傷

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「でもね、今はこんな風になっちゃったけど……精神的に凄く支えてもらった思い出があるから」 また希美の瞳が潤み出す。 「だから、私の方からはケンちゃんに別れを切り出せないの」 「……」 「別れたとしても……こんな傷だらけの体じゃ、桐生君と付き合うことも出来な――」 「そんなんじゃ納得出来ない」 頼斗は希美の言葉を遮ると、希美の体をぎゅっと強く抱き締めた。 「桐生君……!?」 希美は驚いて頼斗から離れようとするが、びくともしない。 「は、離して!」 「嫌だ」 頼斗は希美を抱き締める腕に、更に力を込める。 「俺のことが好きじゃないとかなら納得出来るけど、そうじゃないんだよな?」 「……」 希美は何も言えずに、黙った。 「希美」 頼斗の低く落ち着いた声に、その呼び方に、 「!」 希美はドキッとしてしまう。 「俺はもう、希美以外の女なんて考えられないから」 「……」 「希美の気持ちの整理がつくまで、ずっと待ってるから」 「……」 頼斗の真っ直ぐな眼差しに、希美は惹き込まれて目が離せない。 「だから俺とのことも、もう少しよく考えて欲しい」 「え……」 「希美からいい答えをもらえるまで、絶対に手は出さないから」 「……今の、この状況は?」 既に抱き締められているのに、この宣言は説得力がない。
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