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間もなくして俺達は別れた。南はアパートを出て行った。あっさりとしたものだった。力ずくでも一緒にいたいと思っていたのが嘘みたいだ。
嫌いになったわけでは無い。お互い相手に対して罪の意識を持ちながら暮らしていくなんて無理だ。虚しいだけだ。きっと、笑えない。
「森田さん、夕べはどうして電話に出てくれなかったんですか!」
口を尖らせて峯岸が突っかかってきた。
「電話くれたの? 寝てて分からなかった」
「嘘! まだ9時でしたよ!」
「最近忙しくて疲れてるんだ」
「浮気してたんじゃないんですか!?」
南と別れてから何となく峯岸と付き合うようになった。最初は焼き餅を焼いて貰える事が嬉しかったが最近は面倒臭くなって来た。
南の優しさを思い出す。包み込むような大きな愛。全てを許す無償の愛。あんなに俺を愛してくれる人はもう現れないだろう。
南とはもう連絡は取り合っていない。何処かで1人ぼっちて生きているのだろう。そしてきっともう誰も愛せないのだろう。
俺もそうだ。結局愛された事の無い俺には人を愛する事なんか出来ないのだ。だから俺も1人ぼっちて生きていく。
俺は今日もパチンコ屋に来ていた。峯岸から何度か着信があったみたいだがどうでも良い。無機質な愛の欠片も無い機械と向き合っている時だけが俺の安らぎの時間だ。
俺はもう怒らない。他人なんてどうでもいい。俺が怒るとしたらただ1人。南がアパートに戻って来てくれたら「何でもっと早く帰って来ないんだ!」って俺は怒鳴るだろう。でもそんな日はきっと来ない。俺達はそういう運命で生まれて来たのだから。
ホールを出た。今日は珍しく勝ち、財布の中身は倍になっていた。しかし俺の心は虚しかった。冷たい秋風が俺の背中を押した。1人ぼっちの冷たい部屋へと誘うように。
〈終〉
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