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僕の望み
朝陽が僕の顔に当たる。
暖かい日差しが、僕の体を照らしていく。
僕の身体は少しづつ、少しづつ、温まり始める。
僕はそこで目を開ける。
眩しい陽射しが、僕の目に反射し、
僕は、慌てて目を瞑る。
そこにゆっくりと、温かい手が伸びてきて、
僕の顔を撫でる。
その温かさに、胸がキュンとなる。
僕が目を開けると、君の笑顔が僕の目に飛び込んでくる。
「おはよう」
君は言う。
ああ、朝がきたんだ。
と僕は思う。
その優しい声が聞きたくて、僕はひたすら夜が明けるのを待っていたんだよと。
僕が叫ぶと、
君はゆっくりと僕を抱き上げて、そして、抱きしめてくれるんだ。
その柔らかな頬を、僕の頬に当てて、すりすりとしてくれる。
僕はそれがくすぐったくて、だけど、嬉しくて。
だから、泣いてしまうんだ。
その瞬間、誰かの泣き叫ぶ声が聞こえてきて、
君の温かさが消える。
ボクの目が開く。
そこは、薄暗くて、吐きそうなほど臭くて、誰かの泣き叫ぶ声が、ずっと聞こえてて、
ああ、ほんとの朝がきたんだと僕は思う。
また、目覚めてしまったんだと思う。
夢から覚めてしまったんだと、絶望的な気分になる。
もう、こんな日々をどれくらい過ごしてきただろう。
ボクは外がどんなか、知らない。
ほんとは、お日様の温かさも知らない。
手の温もりも。
君の笑顔もしらない。
夢の中だけしか。
だから、きみの笑顔には、ぼんやりと薄雲がかかっているみたいに見えるんだ。
入り口のところでガタガタと音がする。
ああ、今日はごはんの日か。
もう、お腹が空きすぎて、お腹が空いているのかさえ、わからない。
でも、時折やってくる影のような真っ黒なひとが乱暴に置いてくれるごはんが目の前にくると、急に僕の食欲が目を覚まして、僕はガツガツと食べる。
これしか楽しみがないんだ。
そうして、ボクはまた、真っ暗な部屋の中で、
1日を終える。
変わらない日々。
夢をみて、夢から覚めて絶望して。また夢を見て。
僕の望み?
君に会いたい。
一度でいいから、君に抱きしめて欲しい。
その温もりを知りたい。
だけど、どうせ叶わない。
僕はもうダメだと思うから。
それでもいい。
こんな地獄のような世界なら、早く消えてしまいたい。
また、入口のあたりで音がする。
ああ、また、あの影のような真っ黒な人がやってくるんだ。
そして、僕のケージを乱暴に開けて、僕にごはんをくれるのだろう。
扉が開く。
瞬間、眩しい光が入ってきて、思わず僕は目を瞑る。
足音がする。
僕の目の前にやってくる。
でも、今まで嗅いだことがないような、柔らかくて温かい匂いがする。
これは、夢なのだろうか。
起きてるつもりだったけど、これも夢か。
僕のケージの扉をゆっくり開く音がする。
手が伸びてくる。
僕は身構えた。
その手は僕の顔をそっと持ち上げた。
その手の温もりに僕は驚く。
そして、その手はゆっくりと僕の頭を撫でて、僕を抱き上げ、そして抱きしめてくれた。
僕は思わず顔をあげた。
君の笑顔が僕の目に飛び込んできた。
それは、陽の光の眩しさと共に。
「ごめんね。遅くなって」
君が言った。
そして、君の瞳から涙がこぼれた。
その涙が僕の瞳に落ちた。
その涙が驚くほど、熱かった。
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