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初めて平林と言葉を交わした琴羽は、嬉しさと驚きが入り混じっていた。
「あれ? えっと、確か……総務の人だよね?」
「……はい」
「やっぱ、そうだ。俺、営業部の平林。総務部には時々、用事で顔を出してるんだけど、こうして話をするのは初めてだよね?」
「……はい」
まさか自分を覚えていてくれたとは思ってもみなかったが、いざこうして話をする機会に恵まれても極度の緊張からか、思うように言葉が出てこない。
「名前、教えてくれる?」
「総務部の……浜田です」
「浜田さん、ね。そうだ! 浜田さん、今週の金曜とか時間ある?」
「え?」
平林が自分を誘おうとしている?
こうして話をするだけでも舞い上がる思いだった琴羽は、高鳴る胸の鼓動に頭が追い付かない。
「あ、ごめん、ごめん。もしかして、変な誤解されちゃった?」
その一言で、琴羽の思考は止まった。
平林が口にしたのは、今週の金曜日に営業部で内輪の飲み会があり、そこに総務部の人達も誘おうかということになっていたらしい。
平林が琴羽を誘ったのは個人的にではなく、総務部の一人としてということだった。
「わ、わかりました。ほかの人に訊(き)いてみます」
「よかったー。それじゃ、連絡取り合うのにお互いの連絡先交換しておこうか?」
「……はい」
互いの連絡先を交換したあと、平林は爽やかな笑顔を残してその場を立ち去った。
その背中を見つめていた琴羽は、興奮を隠しきれない思いでいた。
これもすべて、あのマジックオルゴールのおかげだ。
琴羽の願いは[平林と話がしたい]だった。
仕事から帰宅した琴羽は、お守りとして鞄に忍ばせておいた真っ白な紙を取り出すと、それとマジックオルゴールを交互に見つめた。
本当に、願いが叶った。
これは間違いなく、本物だ。
帰ってきてから、ずっと頬が緩みっぱなしの琴羽だったが、突然、その顔を曇らせた。
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