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「お前は浜田さんと席、交代な。浜田さん、こっち、こっち!」
平林がそう声を上げると、その向かいに座っていた男性と琴羽は席を交換した。
隣ならまだしも、こうして向い合せで座ると、正面にいる平林の顔を琴羽はまともに見ることができなかった。
「今回の総務部と合同飲み会は、浜田さんのおかげだからね。端っこになんて座らせられないよ」
その一言のおかげか、両隣にいる営業部の男性までもが琴羽に話し掛けてくるようになった。
ほかの女性達のように話し上手ではないが、それでも酒の力を借りて自分なりになんとか言葉を振り絞っていた琴羽は、それなりに飲み会を楽しむことができた。
会計を済ませて店を出ると、それぞれが自宅方向へと散っていく中、平林が琴羽を呼び止めた。
「浜田さん、今日はありがとう」
「あ、いえ。私も……楽しかったです」
平林は、まだ何か言いたそうにしている。
「今日のお礼に今度、二人で食事にでも行かないか?」
……二人、で?
これは聞き間違いでもなんでもない。
平林は、確かにそう言った。
「はい!」
「よかった。それじゃ、気を付けて帰ってね」
のぼせ上るような思いで、琴羽は平林の後ろ姿を見送った。
悪影響どころか、二つ目の願いが叶ったのだ。
いや、それだけではない。
願ったもの以上の効果があった。
琴羽が二度目に願ったのは[平林の近くの席へ座りたい]だった。
それが叶いさえすれば、あとは自力で頑張るしかない、と琴羽は考えていた。
いつまでもマジックオルゴールの力を借りていてはキリがなく、あれを借りたのは、そのきっかけを手にするためだった。
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