金目鯛の煮つけ

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「ところで、さっきは急に手を引っ張るから驚きました。お腹が空いたんですか?」 「えっ? あっ、それは……」 早く食事を終わらせたくて、つい焦ってしまった――とは言えない。課長は親切心から食事に誘ってくれたのだ。しかも奢ってくれると言う。 冬美は失礼にならないよう言いわけをする。 「ええと、そうではなくて。ただ本当に、予約時間に遅刻してはいけないと思ったので。でも、馴れ馴れしかったですね、すみません」 頭を下げると、今度は課長が慌てた。 「いやいや、馴れ馴れしいだなんて。僕はまったく気にしてませんから」 「そ、そうなんですか?」 「もちろん」 しばし目を合わせ、同時にぷっと噴き出した。 「ここは旅先。お互いの立場は忘れて、楽しく食事しましょう」 「うふっ、はい。ありがとうございます」 やっぱり課長って、良い人かも。 照れくさそうな彼を見て、冬美はあらためて思う。 そして、早く食事を終わらせたいが、楽しみたい気持ちにもなるのだった。
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