目玉焼き【2】

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「そろそろ僕のことを、名前で呼んでください」 「……」 そんなことか……と、緊張がほぐれる冬美だが、じっと見つめられてだんだん困惑してくる。 これまで一度も名前で読んだことなどない。 「ええと、いつから?」 「もちろん、今からですよ」 「ひい……」 いきなりの要求に焦りまくるが、逃げるのは許されない。なにもかも甘えて、彼の望みを一つも叶えられないなんて、それこそ妻失格である。 「分かりました。では、いきますよ」 「うん」 「よ……」 舌がこんがらがりそうだ。しかし、やらねばならない。 「よ……陽一さん」 彼の真面目な顔が一気にほころぶ。冬美がいたたまれなくなるほど、喜んでいる。 「よくできました。やっぱりきみは、やればできる人です」 「あ、ありがとうございます。かちょ……じゃなくて、あわわ……」 明るい笑い声。 ほのぼのとした空気が朝の食卓を包み込む。 「冬美さん。これからもどうぞよろしくお願いします」 「はいっ。陽一さん」 パンと目玉焼きとコーヒーと…… 大好きな人と暮らせる幸せを、冬美は噛みしめた。
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