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道路の反対側に建つホテルに、課長が予約したレストランがあるらしい。先ほど彼が電話して冬美の席を追加してくれた。
高いお店だったらどうしよう。いや高いに決まっている。なにしろ金目鯛の煮つけだ。
冬美は懐の心配をしたが、課長は「お付き合いしていただくお礼です」と微笑みかけた。つまり、奢るつもりなのだ。慌てて遠慮するが彼は受け付けず、ここまで来たのである。
(そういえば、忘年会か何かの席で、経理課長が面白そうに喋ってたっけ)
あいつは変わり者だから女が寄って来ない。独身の上に仕事が大好きときては、金が貯まってしょうがないだろう――
企画課の給料は他部署より高い。しかも彼は管理職でありボーナスも一桁違うはずだ。他部署の平社員に奢るくらい、どうってことないのだろう。
でも、そんなに変な人ではないと冬美は思い始めている。奢ってもらうからではなく、こうして近くにいる印象として。どちらかといえば、彼を変人だと笑う経理課長のほうが感じが悪いし、あまり好きではない。
しばらく周辺を歩き、もといた場所へ戻った。
二人並んで手すりにもたれ、景色を見渡す。右手に見える桟橋から、黒船を模した遊覧船『サスケハナ号』がゆっくりと出港する。
「野口さん、見てください。あの島が柿崎弁天島。吉田松陰がペリーの船に乗せてもらおうとして、祠に身を隠していたそうですよ」
「えっ、あの島が?」
冬美は高校時代の一時期、歴史小説にはまった。新選組が好きだったので、幕末の話には興味がある。
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