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レストランはホテルの5階にあった。ガラス張りの窓から海が見渡せる、素晴らしいロケーションだ。
冬美と課長は窓際の席に案内されて、向き合って座る。
「ここに来るのは何年ぶりかなあ。相変わらず、いい眺めです」
「そ、そうなんですね」
お昼時のためかテーブル席はほぼ埋まっている。家族連れやカップル、年配の夫婦など客層はまちまちだが、いずれも旅行客のようだ。
「今は曇ってますが、午後からは陽が射すそうですよ」
「なるほど」
何がなるほどなのか分からないが、とりあえず返事をする。なんとなくソワソワして、落ち着かなかった。
こうして正面から向き合い、冬美は急に、館林課長が一人の成人男性であることを意識した。今さらながら、妙なことを考えたりする。
自分たちは傍から見ると、どう映るのだろう。年齢は離れているが、親子ほどではない。やっぱり上司と部下? 兄妹? まさかの友達?
(ていうか、ホテルのレストランで食事って、お見合いみたいな……)
「野口さん。どうかしましたか?」
「いえっ、なんでもありません!」
ばかげたことを考えてしまい、冬美は慌てふためく。というか、なぜそんな発想をしたのか意味不明である。自分たちがどう見えるかなんて、決まっているではないか。
もちろん上司と部下だ。部署は違えど、実際そうなのだから。
一人うろたえる冬美を見て、課長はなぜかニコニコする。気のせいか、ずいぶんと楽しげな様子だ。
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