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「新婚さんのメニューってどうなんだろ。やっぱりみんな、凝ったものを作るのかな」
会社帰りにスーパーに寄ったはいいが、冬美には何を買えばいいのか分からなかった。
賑やかな売り場には秋の味覚が並んでいる。
「課長の好みは、ええと……」
課長というのは、彼女が昨日式を挙げたばかりの旦那様である。
館林陽一。35歳。株式会社くじらリゾート国内事業部企画課長。
冬美は財務部経理課所属。
部署は違うが、彼は同じ会社に勤める管理職だ。付き合うようになってからも「課長」と呼ぶのが基本であり、結婚したからといっていきなり名前呼びするのは恥ずかしかった。
そもそも十も離れた年上男性と付き合い、しかも結婚するという、年下推しの自分にとって意外すぎる状況に、いまだに慣れないのかもしれない。
「お魚が好きなんだよね。下田のホテルでは金目鯛の煮つけを美味しそうに食べてたっけ」
デートで食事するとき、彼はいつも高級レストランとか、グルメなお店に連れて行ってくれる。
冬美は今頃になって気づいた。これまで彼にはご馳走になるばかりで、一度も手料理を振る舞ったことがない。
「手作りのごはん……か」
冬美は一人暮らしの経験がなく、大学も会社も実家から通い、25歳になる今の今まで母親の手料理を食べてきた。
台所を手伝うことはあったが、米研ぎと味噌汁を任されるていどで、それも休日くらいのもの。大したものは作れず、というか、料理にさほど関心がないのだ。
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