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「わ、美味しい!」
甘辛のたれをまとう、脂ののった柔らかい白身。これが魚? ほっぺたが落ちそうという表現があるが、まさにそれ。
「これが伊豆下田の名物、金目鯛の煮つけなんですね」
「そのとおり。名物に美味いもの有り。下田は他にも、伊勢エビやあわびが名産ですよ」
「へえ……」
食にこだわりのない冬美も、このレストランで提供されるものならぜひ食べてみたいと思った。
「いいなあ。私、こういうところでご飯を食べることって、めったにないんです。最高ですよね」
「気に入ってもらえて良かった。僕も最高の気分です」
嬉しそうな彼を眺めるうちに、親近感が湧いてきた。心が和らぎ、しだいに打ち解けるのを感じる。
「ここまで足を運んだ甲斐があった。幸せだな」
「本当に、金目鯛の煮つけがお好きなんですね」
「ん? あ、はい。大好物ですよ」
「ちなみに、他のお魚も?」
「そうですねえ、魚介類全般が好きかな。大分の関アジ関サバ、福井の越前がに、北海道のサケイクラ……食べたいと思ったら、今日みたいに遠くまで出かけてしまいます」
「……」
好きが高じて、どこまでも追いかける。冬美はその行動がとてもよく理解できた。
魚を食べに下田まで出かける課長を、変わった人と思ったけれど、なんのことはない、自分も同じである。
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