金目鯛の煮つけ

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(私も助清くんが好きすぎて、全国ツアーを追いかけたことがあるもんね) むろん仕事に支障をきたさぬよう努力し、有給を利用したのだが、経理課長には「信じられない」という顔をされた。『好き』を原動力にした活動を理解されず、あのときは肩身が狭かった。 「思い付いたら即実行というか、唐突なんですね。僕はこういう性格なので、よく変わり者と言われます」 「えっ?」 変り者という噂を本人が知っていたと知り、冬美はびっくりする。 「特に、間宮(まみや)さんに小言をもらいますね。そんな風だから、いつまでも結婚できないんだぞ、と」 「はあっ? 間宮って、うちの課長の間宮ですか?」 「はい。あの人は僕と違ってしっかり者だから、いろいろ世話を焼かれます」 冬美は箸を折れんばかりに握りしめた。 (あのオッサン! いくら舘林課長と同期だからって、言いたい放題にもほどがあるよ。夢中になるものがあるだけなのに、変人扱いするなんてひどい。それに結婚とか、アンタに関係ないでしょうが!) 個人的な恨みも相まって、大いに憤慨する。 「そんなの、気にしてはいけません!」 前のめりになる冬美に、課長が目をぱちくりとさせた。 「ど、どうしました。顔が真っ赤ですよ?」 「舘林課長。実は私も……」 こうなったら言ってしまおう。この人なら、きっと分かってくれる。 ここは旅先。立場なんて関係ない。 「私だってそうです。今日は助清くんへの思いを吹っ切るために、傷心を癒やすために、下田まで来たのです!」 「助清くん?」 冬美は熱弁した。自分がアイドルオタクであり、非オタの友人が引くほどのめり込み、給料を惜しむことなく使って、めいっぱい活動していることを。 そして推しに失恋し、傷心旅行を決意し、今に至るまでの心情をすべて告白した。 舘林課長は食事を中断し、耳を傾けている。一言も聞き漏らすまいとするかのように、じっと、冬美の目を見つめて。
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