金目鯛の煮つけ

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冬美は館林課長とともに、下田をめぐることにした。 課長は観光スポットに詳しく、冬美が見たい場所を案内してくれると言う。助清くんの生まれ育った町を要領よく周れそうである。 でも何よりその気になったのは、課長に好感を持ったからに他ならない。 年上の男性にこんな感情を抱くのは初めてだった。 助清くんは夏になると白浜の海水浴場で泳いだとインタビューで答えている。冬美が彼のファンになったきっかけの写真も、その海が背景だった。 今回、最後に海に行って自撮りするつもりだったが、夕方から再び雲が出始めると天気予報で知り、予定を前倒しすることにした。 晴れているうちに、助清くんの海が見たい。 「すみません、私の都合で」 「構いませんよ。僕は特にコースを決めていませんので」 「実は白浜のあとも、行きたいところがありまして」 「大丈夫、どこでもお付き合いします」 「あ、ありがとうございますっ」 バスの中で、二人は他愛のない話をした。多少の遠慮はあるが、食事の前に比べたらずいぶん打ち解けている。 舘林課長は優しくて、物知りで、なにより「こちら寄り」のタイプだ。冬美の中で、彼の好感度は上がるばかりだった。 「わあっ、きれい!」 明るい太陽のもと、青い海が輝いている。 冬美は駆け出し、潮風を胸に吸い込む。ここが助清くんの故郷。何て素敵な場所だろう。もっと早く来るべきだった。どうして今まで来なかったのか、我ながら不思議でしょうがない。 後ろを振り向き、ゆっくりと歩いてくる課長に大きく手を振った。 「かちょうー! 海ですよー!!」 課長も手を振り返し、まぶしげに目を細めた。 282543d3-c12e-4094-a653-ca32ec37db80
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