金目鯛の煮つけ

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青い海をバックに、意外なほど爽やかなツーショットが撮れた。 「課長のスマホに送ります。いいですか?」 「あ、うん。ありがとう」 IDを交換する。課長がアプリに保存するのを見て、冬美はなんだか嬉しくなる。 「旅の記念にツーショット写真か。誰かと自撮りするなんて初めてですが、いいものですね。できればこれからも……」 「えっ、なんですか?」 波の音がかぶさり、聞き取れなかった。だが課長はスマートフォンを大事そうにしまうと、何も答えずむこうを向いてしまう。 「課長?」 「ここは、あなたが大好きな助清くんのふるさとです。僕はバス停で待っているので、ゆっくりしていってください」 「あ……」 すたすたと歩いて行く。 冬美はスマートフォンを胸に抱き、感激に震える。ここまで気持ちを分かってくれるなんて、想像以上だった。 「舘林課長。ありがとうございます……!」 バスの時間まで、冬美は助清くんへの思いに浸った。いざとなったら辛いかなと想像した聖地訪問だが、心穏やかに過ごすことができた。 最後に立ち上がり、声に出して伝える。 「助清くん、幸せになってね。これからも応援しています」 輝く海に見送られ、課長のもとへと走った。
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