金目鯛の煮つけ

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「励ましてあげたいけど、きみにとって僕は同じ会社の人間というだけで、何者でもない。どうすることもできないなと、無力感に苛まれて、昨夜はよく眠れませんでした」 「そ、そんなに?」 赤の他人の私を、なぜそこまで……冬美は不思議に思いつつ、やっぱりもしやと考える。いやまさかそんなバカなこと、ありえない。 だが、バカを承知で訊いてみた。 「まさか、課長。私を心配して、下田までつけてきたなんてことは」 「ええっ?」 今度は課長が驚く。そして、とんでもないと手を振った。 「いやいや、違います。それではストーカーになってしまいますよ」 「で、ですよね」 でも、こんな偶然があるだろうか。さらに追及したくてむずむずしていると、課長が答えてくれた。少し赤い顔で。 「どうしても眠れないから、きみがそこまで好きなスケキヨくんとはどんな男なのか、気になって調べたのです。すると、彼が伊豆下田出身であることが分かりました。その情報が頭に残ってたんでしょうね。朝起きて一番に、『金目鯛の煮つけが食べたい』と思い付き、いつの間にか電車に乗っていました」 「じゃあやっぱり、私と会ったのは偶然だったんですね」 「もちろん、偶然です」
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