金目鯛の煮つけ

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伊豆急下田駅17時21分発の電車に乗った。 二人掛けの席に並んで座ると、課長が到着までのルート案内をする。 「熱海で新幹線に乗り換えましょう。東京着は午後8時20分くらいですよ」 「はあ」 東京に着いたらお別れ。そう思うと冬美のテンションは下がり、がっかり感が声に表れてしまった。すると、 「よかったら、熱海で夕飯をたべましょうか。いい店を知っています」 「わっ、嬉しいです。ぜひぜひ!」 課長の提案に、声も表情もパッと明るくなる。 分かりやすいこの反応。冬美の心情はストレートに伝わっただろう。 彼の温もりが冬美の手を大らかに包み込み、思いを打ち明けられる。 「僕は、野口さんを好きになりました」 「……!」 ありえないほどドキドキする。このときめきは冬美の気持ちそのものだ。 「間宮さんからきみの話を聞いて以来、気になる女性ではありましたが、今日初めて直に話をして、強く惹かれました。きみにとっての幸せ。おそらくそれは、僕と同じ価値観だ。きみのことをもっと知りたい、話がしたい。そして今、ますます望みが深まっていく」 望み―― なんだかどきどきしてきた。冬美は彼が言わんとすることを、感覚で理解できる。 「野口冬美さん。僕と付き合ってくれませんか」 素直にうなずいた。なんの抵抗もない、自然なこたえ。 (私と課長の、ご縁……) きちんと言葉にして伝えたい。 このときめきを。 「私も、あなたを好きになりました……大好きです!」 そして5か月後。 二人は結ばれ、夫婦になったのである――
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