目玉焼き【1】

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『ありがとう。終わったらすぐに帰りますね』 「はい。あ……」 通話を切ろうとして、はっと気づいた。 「あの、朝ごはんは何がいいですか?」 今朝は出勤途中にあるパン屋さんで朝食を済ませた。昨日の結婚式とかパーティーとか二次会とか、あれやこれやで疲れてしまい、二人とも寝坊したのだ。 「リクエストがあれば買い物しますので。和食なら鮭とか鯵の干物とか。それともパンがいいですか?」 『そうですねえ』 しばし間を置いてから、返事が聞こえた。 『僕はいつもパンとコーヒーと、目玉焼きかな』 ずいぶん簡単なメニューである。 そういえば、課長は今朝もフレンチトーストとコーヒーだった。普段はシンプルな食生活なのねと思い、胸を撫で下ろす。 『それではまた、後ほど。気をつけて帰ってくださいね』 「はいっ。ありがとうございます」 冬美は通話を切ると、思わず微笑んだ。 「金目鯛の煮つけとか言われなくて良かった~」 明るい気分で買い物を再開する。卵とパンさえあれば朝ごはんができるなんて素敵! さっきまでの焦りはすっかり消えていた。
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