目玉焼き【2】

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照れたようにうなずく陽一。 もしかして、すべて誤解だったのだろうか。うろたえる冬美に、彼は理由を話した。 「下田のホテルで、冬美さんと食事しましたよね」 「はい。金目鯛の煮つけをご馳走になりました」 忘れもしない、あの日。二人の大切な思い出だ。 「冬美さんはあのとき、料理を美味しそうに食べながら言いました」 ――いいなあ。私、こういうところでご飯を食べることって、めったにないんです。最高ですよね。 そんなことを私が? 冬美は懸命に思い出そうとするが、記憶になかった。 「僕のほうは冬美さんが喜ぶと思って、あのレストランを基準にしてデート先を選んだわけです。あと、伊勢エビとかあわびとか、海の幸を味わってもらいたくて」 「……つまり、私と課長はお互いに」 「グルメだと思い込んでいたようですね」 なんてことだろう。 開けてみれば、単純な行き違いだった。 だけど冬美は感激した。あの日の、たったあれだけの言葉をこの人は覚えていて、デートに反映させたのである。 「ありがとうございます、課長。そんなに思ってくれてたなんて、感激です!」 「こちらこそ。でも、僕らはまだまだですね」 結婚生活は始まったばかり。 一緒に暮らすのだから、お互いのことをもっと知らなければ。 だけど、こんなに嬉しい課題があるだろうか。 「でもさすがに、半額弁当は引きますよね。あと、100円の食パンとか?」 冬美がもじもじすると、課長が即座に「いいえ」と否定する。
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