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「今夜は私だけだし、これでじゅうぶんでしょ。料理は明日から本気出す!」
言いわけじみてると思うが、仕方ない。一人分を作るモチベーションはゼロだし、何より半額シールの魅力に抗えなかった。
もともと食べ物にこだわりがなく、お金をかけるという発想がないのだ。
「その点、課長はグルメだし、高級食材を好むタイプよね……ん?」
弁当を電子レンジで温めようとして、冬美は手を止める。
そんな課長が、なぜパンとコーヒーと目玉焼きという質素な朝食なのか――
椅子に座り、しばし考え込む。
普段はシンプルな食生活なのかなと単純に解釈したが、どうも違う気がする。
「そうだった。課長はあの日……」
頭に浮かんだのは海辺のホテル。冬美のぶんも料理を追加してくれた課長。僕の大好物ですと、金目鯛の煮つけを嬉しそうに食べていた。
お魚が好きなんですね、なんて会話するうちにだんだん楽しくなって、帰りの電車で交際を申し込まれたときも抵抗なくうなずいていた。
「年上の男性もいいなあって初めて思ったっけ……って、そうじゃなくて!」
弁当をテーブルに戻し、半額シールをじっと見つめる。
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