満ちる月に囚われて

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きちんと整備された川沿いの道は春になると桜並木は満開に咲き誇り、散歩コースとして申し分ない。 夏の風物詩である望来花火大会もベランダから眺められるのだから、なんとも奢侈な物件である。 やっぱりいいな、ここ…… マンションに気を取られたままに歩き出そうとしたつま先が盛り上がったコンクリートの側溝蓋に引っかかって。 「きゃ!」 ぴちゃっ と、いう奇妙な音を咄嗟にもう片方の脚でなんとか踏ん張った。 ………しかし、ながら。 持っていたコーヒーの容器はプラスチックだけの重たさに戻っており、蓋がグレーチングの上でカラカラと回りながら、次第に動きが弱まってストン…と静止する。 伏せた視界の端っこに映り込んでいる、スニーカー。 おもむろに見上げた先にあったのは、コーヒーが染み込んでいる真っ白な服。 「……………」 「……………」 何を起こしたのか。 どうすればいいのか。 思考回路はショート寸前だが、茶色の液体は服の上で創造的な地図を完成させていた。
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