満ちる月に囚われて

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『タイのコムローイ祭り、毎年満月の日にやるんだけど、あの月に向かって灯りが上がっていくさまがたまんなく綺麗なんだよ』 『また行って来たらいいじゃない』 『次行く時は円連れて行くって決めてるから』 『本当、満月好きだよね』 『そりゃだって円の名前だし』 『え? 私がきっかけ?』 『今更?』 私と付き合っている間、透は長期で日本を離れることはなく、退学を危ぶまれていた大学も私より2年遅れで卒業することができた。 この先に二人の未来があるのだと。 そう信じていた私の現実は、どこまでも痛烈だった。 『いつ帰るか分からないって、そんな…』 『待ってくれとか無責任なこと言わない。でも戻ってきたら迎えに来るから。その時、円に男がいたら諦める』 世界を渡り歩くという夢をどうしても捨てきれない彼は、日本を出ることを一人で勝手に決めたのだった。 枠にはまった生き方ができないのは分かっているつもりでいたけれど。 私との5年間が、相手にとってどれほど窮屈だったかを嫌というほど思い知らされた決断でもあった。
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