満ちる月に囚われて

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「こちら、修繕積立費が滞納している物件でした」 先日提出されたリストの中に混じっていた問題物件を指摘すると、鈴木さんは「そんなはずは…」とボソボソと呟きながらを資料をめくり、こじんまりとした目がぎょっと見開いた。 修繕積立費滞納物件は残債を返済しなくてはならず、売却額が債務を下回った場合ははっきり言って売り物にならない。 査証もせずに廉価だったという理由で選んだのは一目瞭然。だからこそ咎めざるをえない。 「私もまだまだ勉強不足ですが、今回のミスはあまりにも稚拙に思います。 このような見落としが生じた原因は何ですか」 歳の離れた年上の人を部下に持つ以上、言葉遣いにはかなり気をつけているが、一番頭を抱えざるを得ないのが注意する時だ。 プライドを傷付けてはならないし、かといって婉曲過ぎても問題の重大性が伝わらない。 「…僕の不注意でした。次はきちんと確認します。申し訳ありませんでした」 「再発を防ぐため、チェックリストを作りましょう。 手間はかかりますが、慣れだけではどうしても防ぎきれないものがありますから」
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