満ちる月に囚われて

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ピロン 電車でニュースを流し読みしていた画面のバナーに実里からのメッセージが表示された。 [ 今朝からユズの熱がなかなか下がらくて… また違う日にしてもいいかな? ] 実里は大学の同級生で、ユズは今年2歳になったばかりの娘ちゃん。 地方に住んでるお母さんが泊まりに来るというので、久しぶりに飲みに行く約束をしていた。 残念ではあるけど、熱なら仕方ない。 了解の返信をして、そのまま帰ることにした。 帰宅した誰もいないリビングが、開放的に感じられる。 元々一人暮らししていたが、同棲を機に引っ越して三ヶ月。 彼氏は友達から紹介された一つ上の通信販売広告の営業マンで、今夜は会社の同僚と飲みに行くとのこと。 キッチンのシンクを見ると朝食の食器が置かれていて、マグカップの底は乾いたコーヒーの跡がこびりついている。 ………またですか。 溜まっていた疲労感が波のように押し寄せて、ひとまず二人がけソファに横たわった。
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