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「美味しい」
初めて臣が淹れてくれたコーヒーの味はまろやかで、柔らかさがあって、すごく飲みやすい。
「…室瀬が変な男連れてきたら塩まくって言ってたんだよ」
決まりが悪そうな顔で付き合えない理由を打ち明けてくれたが、変な男が臣だと理解できた途端に「……はい?」と聞き返してしまう。
「なんで臣が変な男になるの?しかもパパがあげたあれ、実印だったよね? 臣のこと認めてなかったら、あんな大事なもの譲ったりしないわよ」
パパがどんな気持ちで、地元に帰ってきたのかは分からない。
けれど、帰る家どころか友人すらいなかった彼にとって、臣はかけがえのない存在だったように感じてならないのに。
「……それでも娘が一番可愛いもんだろ」
「って言うけど、実際は臣の方が私より可愛がってもらってたんだからね。
本当は"私のことも考えろ"ってあの人に文句言いたいくらいなの。
でも、……パパが独りじゃなくてよかったって気持ちの方が大きいから臣には感謝してる」
当時の臣に寄り添ってくれたパパにも、同じことを思うのだ。
私がしたかったことを、できなかったことを、二人が代わりにしてくれたようなものだから。
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