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この人に見つめられると、どうしてか逃げ出したくなった。
心の弱さまで覗かれてしまいそうで、怖くてたまらなかった。
だけど、本当は、こんな自分を受け入れてほしかったのと今なら素直に認められるから。
「…私でよければ」
返事をした直後、臣は「はぁー…」と深い息を吐きながら傾れるように私の肩に頭を預けた。予想外の反応に困惑しないわけがない。
「ど、どうしたの」
「……やっと言えたと思って」
散々、私の連絡を無視していた人のセリフだとはとてもじゃないけど思えない。
でも、だからこそ、抱きしめたくなるほどの愛おしさが込み上がってくる。
誰かを信じきる恐さは、まだ、あるけれど。
この人からもらったものを考えたら、彼のこれからが、寂しさでなく、喜びであふれるようにと願わずにはいられなかった。
その喜びをつくりだせる自分でありたいと切に想うことすら、この人に教えてもらったから。
「トメコさんがまた回数券くれたよ。いつ行く?」
【終】
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