502人が本棚に入れています
本棚に追加
エントランスを出ると、数メートル先にグレーの車がハザードランプを点滅させて停まっていた。
いつもながら、気に留めることもなかっただろう。
しかし助手席から降りてきた人の姿に、思わず足を止めてしまう。
彼氏の、佐々木 一也だったのだ。
飲みに行く会社の同僚は男性のはずなのに、運転席に座っているのは可愛らしい雰囲気の女性。
見間違えであれば、どれだけ良かっただろう。
ドアを閉めるかと思いきや、一也は身を屈めて車内にいる女性の頬を名残惜しそうに撫でたのだ。
………あり得ない、以外に今の心境を形容する言葉がみつからない。
相手が私に気付いたのは、発進する車を見送った直後。
表情筋が引き攣ったように、顔が強張っている。
「……円、今日飲みに行くんじゃ」
「ユズちゃん熱出たからなくなったの。てか今の子だれ?」
「あ……と、制作部の山田さんって子なんだけどさっき田中さんと三人で飯行ってきて…」
明らかに目が泳いでるのだから、半信半疑にすらなれない。
まさかの、浮気。
しかもその現場に、モロ遭遇って。
笑えないにもほどがある。
最初のコメントを投稿しよう!