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「スマホ貸して」
「…なんだよ、急に」
「早く貸して」
「………………」
スマホを上着のポケットから取り出した一也は、しぶしぶといった様子で私の手のひらに置いた。
チャットアプリを開くと、案の定、先ほどの女であろう相手と仲睦まじいやりとりが残っていた。
数時間前までの履歴しか残っておらず、随時消していた姑息さに更なる嫌悪感を覚える一方で、全く勘付かなかった自身の鈍さにも腹が立ってならない。
チャット内容を表示させた状態のスマホを無言で返却すると、一也は項垂れながら「……ごめん」と謝った。
「好きってずっと言われてて……マジでごめん。関係切るし、もう次はない。絶対にないから」
この言葉を信じられる人は、この世にどれほどいるだろうか。
少なくとも、自分がその中に含まれてないのは確実だ。
「円のこと本気なんだ。今回の件だって」
「今月中には家でるから」
「……………」
「それまで極力顔合わせないようにして」
「…なんで浮気したとかさ。お前、なんで何も聞かないの」
今更それを知ったところで、どうなるわけでもないから。
裏切りには変わりない。
許せないものは、許せない。
ただ、それだけの話なのに。
「円、お前さ……俺のこと、好きじゃなかったんだろ?」
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