満ちる月に囚われて

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『だから言ったのよ、付き合って一年も経たない内に同棲するもんじゃないって。 そういう計画性の無さが無駄な出費に繋がってるんでしょう』 あぁ……耳が痛い。 最小音量にしてるのに、磁石に引っ付く砂鉄かのごとく集中して刺さってくる。 『しかも相談もなしに引っ越しまで済ませるなんて。事後報告されたあたしの身にもなってよ』 「…ママ。私、今仕事中なの」 『帰ってるんじゃないの?』 「そのついでにポスティングしてるところ」 といっても、なかなかできるマンションが見つかってないのだけれど。 不動産屋は、売主探しが一番の要。 取り扱う商品がなければ仕事にならない。 これまで会社の近くを周っていたが、引っ越してきたからにはこの八朔(はっさく)町も開拓せねばと意気込んでるのだが。 『でも別れた理由はなんなの?しっかりしてる人だったじゃない』 うちのママは仕事を応援してくれるどころか、この話を引っ張る気満々である。
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